継承語としての日本語教育

今日から、新カテゴリーをつくった「継承語」、英語ではヘリテージ・ラングエージ(Heritage Language)と呼ばれる概念。「ハーフ」と部類されていた子が、最近は「ダブル」や「ミックス」と呼ばれる傾向になっているのと同様、アメリカ、カナダ生まれの、比較的新しい概念です。

例えば私の子供たちのように、日本人とドイツ人の両親を持ち、ドイツに住み、ドイツの教育システムに入り、ウィークデイはドイツの学校に学ぶ子供たちにとって、「日本語」は「母国語」とは言えないし、かといって「外国語」でもない。「継承語」として学んでいるというのが、一番フィットする・・・ということになります。

またあえて簡単に「継承語」を説明すると、「継承語とは、親から受け継いだ言葉」ということになります。我が家の場合は私から受け継ぐ日本語がそれにあたり、例えば日本人とフランス人の外国人同士の両親を持ち、ドイツに住み、ドイツの学校に通っている子供の場合は、継承語は「日本語」と「フランス語」の両言語、ということになります。

我が子の日本語教育に試行錯誤しながら、最近とても気になり、惹き付けられ、強く共感を覚え始めていた「継承語教育」の第一人者であるアメリカ・ニュージャージー州プリンストン日本語学校理事長のカルダー淑子先生のフランクフルトの講演会に行ってから、ますます「継承語」が気になるようになってきました。これからブログでも、定期的に追っていくテーマにしたいと思っています。ドイツ語日本語のバイリンガル教育だけでなく、他の外国語とのバイリンガル、トライリンガル教育ももちろん、特に国際結婚や多言語環境にない方でも、お子様を将来グローバルに通じる「国際児」に育てたいと考えられている方、その方法を模索されている方には、「継承語教育」から生まれる視点、学習メソッドに、大きなヒントがあります。誕生したばかりの分野ですが、この分野は、確実に今後ぐんぐん発展し、将来的に多言語・多文化に通じ、多視点を持つ子供を育成していくという意味で、最終的には世界の平和を・・・という壮大なプロジェクトにも続いている道だと、私は今の時点で直感しているほど、画期的な分野になると思われます。興味のある方は「母語・継承語・バイリンガル教育(MHB研究会)」のHPもぜひご参照下さい。

継承語教育的視点の例2つ(注:私の独断):
今日の息子との日本語の学習時の出来事。息子が「星」の漢字を忘れてしまった時に、「星は元々どうやってできのるかな?全ては太陽(お“日”さま)から“生”まれたんだよ」と説明し、息子は“星”の漢字を思い出したのです。
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日本語を母国語として学んだ私は、学校で「星」の漢字の成り立ちの意味からは学ばず、漢字の形として「星」というのを、そのまま暗記して覚えた記憶しかありません。日から生まれたから星、というのは日本語を継承語として学ぶ息子と一緒に、母国語とは別の視点で学びなおしている・・・と言えるかもしれません。

もう1つはこれ↓。息子は「赤」という漢字を間違えて書いたのですが・・・・・
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私は敢えて、「この漢字、間違ってるよ」とは言わず、「これは、漢字の赤じゃないけど、他の色かもしれない・・・。どの色だろうね?」と質問を返しました。少し考えた息子は「ムラサキ」と回答。私は「正解よ♪」と言いました。この息子が間違って書いた「赤」という字は、継承語的観点から見ると、「赤」と「青」の中間、つまり「ムラサキ」のような漢字ということができます。厳密にはもちろんこれは、堂々不正解。「ムラサキ」の漢字は、別に「紫」という、「赤」とも「青」とも似つかない漢字が存在している訳です。

でも、ここで大事なのは、考えをもう一歩進めてみること。「赤と青を混ぜると紫になるのに、どうして赤と青を合体させてムラサキっていう漢字ができなかったんだろうね?」という視点を持つことです。一言語話者の視点からすると、単なるバカ?!な間違いで一掃されてしまう、多言語・多元文化話者の視点の発想。実はこんなところに、クリエイティビティーとか、異文化間の理解とか、ひいては上記のような世界平和とか、壮大な理想に近づくヒントが沢山隠されています。イスラム文化を中心にした文化衝突、戦争、金融問題から原発問題まで・・・継承語から広がる国際教育は、そんな一見遠い問題をぐんと身近にしていきます。なので、継承語とは、厳密には、単なる言語学習でなく、世の中はシンプルに白黒に分けることは出来ないよ!という、多視点学習(=国際人養成のための学習)という方が近いかもしれません。

・・繰り返しますが、このテーマは本当に面白く、私も常にリアルタイムで、自分の子供たちと実験しながら発見しているので、これからも長くフォローしていきます。
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by mikiogatawestberg | 2012-06-19 22:27 | 文化・Culture・Kultur
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