ドイツ巡業サーカスにみる、グローバリゼーションの縮図
先日日曜日の午後、子供たちを連れて、ちょうど自宅近所に5日間やってきている、ドイツの地方巡業のサーカスを見に行ってきました。
「サーカス」というエンターテイメントは、勝ち組・負け組が明確に2極化された事例として、ビジネス的な見地からも、現在、世界的に注目を集めているのをご存知ですか?そもそも話題の発端となったのは、日本人のプロバトントワラーの女性が入団したということもあり、今、日本でも急に認知度と人気を上げてきている、シルク・ドゥ・ソレイユの復活劇でした。斜陽ビジネスであるサーカス業界に危機感を覚え、従来の“子供向け”というイメージ、芸術性の面からみても、オペラやバレエ、ミュージカルなどに比べ、位置づけがあいまいな「サーカス」というカテゴリーを見事にブレークスルーさせ、“おしゃれな大人のためのエンターテイメント”として大変身させ、成功させたという背景があります。サイトを見て頂けると分かると思うのですが、第一線の振付師やアーティストを集め、まるでニューヨークや劇団四季のミュージカルのような(それ以上を狙っている?!)洗練を感じさせます。 このトレンドの波は、もちろんドイツにもやってきていています。 毎年フランクフルトにやってくる「AFRIKA!AFRIKA!」というエンターテイメントも、従来的な民族伝統というアフリカのダンスや音楽というショーというカテゴリーを大きく超え、やはりトップリーダーに世界的な一流の振付師をつけ、またメディアも派手に使うなどして、モダンで前衛的、エキゾチックだけれども同時にユニバーサル、、、という、今までになかったジャンルを作り出して、大成功しているのです。 (*実際、タイムズ紙は、この「AFRIKA!AFRIKA!」を、「A hot blooded Afrikan altanative to Cirque du Soleil(熱い血たぎるアフリカバージョンのシルク・ドゥ・ソレイユ)」と、絶賛しています) 私も去年、家族全員で「AFRIKA!AFRIKA!」に行ってきましたが、夕方からはじまるショーは、最終日まで連日満員。来ているゲストも、子供たちはごく少数で、殆どが独身のおしゃれなカップル。映画やレストランに行くマンネリデートより、断然センスが上という感じになっているのだと思いました。・・・内容は、私と主人は、圧倒されるほどの素晴らしい内容。・・・派手でカラフルなパフォーマンスに子供たちも見とれてはいましたが、反面、「アフリカなのに、なんで動物が一匹も出てこないの~」とちょっと不服ももらしていたので、やっぱりこのエンターテイメントが、大人を基準に作られていることを実感したのでした。 ・・・前置きが長くなってしまったのですが、こんな訳で、子供たちの、「サーカスで動物たちを見たい!」という希望を叶えるためと、私自身が、絶不調と言われる小規模の巡業サーカスの現実を、実際に見てみたいという、ジャーナリスト&ビジネスウーマンとしての興味から、今回の訪問となったのでした。 広い公園敷地内の芝上に設置されたサーカス会場。まずは、入り口(Kasse)でチケットを買います。大人は20ユーロ近い入場料。↓ サーカス団は、トラックでドイツ中を巡業↓ この簡易テントのような中で、サーカスが行われます↓ 開始時間ぎりぎりに着いた私たちですが、観客は全部で、50人前後くらいでした↓ サーカスがスタート。始めに登場したのは、無表情な10歳くらいの女の子。地上から2mにも満たないくらいの高さの綱渡りです。十分な太さのある綱であるのにも関わらず、ふらふらっと落ちそうになることも度々、特に回転するでもなく、何か特別なパフォーマンスをするという訳でもなく、何度か行き来をするというレベルの演技で、私はいきなりのショックを受けます↓ 中央にどかんと立って、指示・監督しているのは、この女の子のママ。そう、巡業サーカスは、その殆どの場合が零細ファミリービジネスなのです。「Circus Kraemani(サーカス・クレーマニ)」という今回のサーカス、「クレーマニ」というのは、このサーカス団の名前であり、「クレーマニ家」というファミリーネームでもあるのです。 先が思いやられるスタートだなあと、思わずため息をつきそうになりましたが、こらえて拍手。次は、小さなサーカス団の動物が出てきて、簡単なジャンプなどを披露。う~ん、敢えてノーコメント。でも子供たちは、「動物だ~!」と言って、うれしそうにしていました↓ 次に、クレーマニ家長女の、グラスを使ったパフォーマンス。シルク・ドゥ・ソレイユでは、第一次オーディションで落ちてしまいそうな肥満体です。ファミリービジネスで、家族総動員、適材適所という余裕もないことが、伝わってきてしまいます↓ 長女と次女で、発表会を髣髴とさせる演技。またママが傍で監督しています↓ 犬のジャンプ芸↓ 鳩を使った芸。小さなおもちゃのようなメリーゴーランドに載せて回したり、鳩の羽をくるくるのカールにしていたり、時代錯誤的な感性に、この人たちは、時間が止まってしまっている・・・と私は一人で衝撃を受け続けます↓ サーカスには必ず登場のピエロ役は、団長であり(おそらく)、クレーマニ家の長であるパパ↓ またまた、次女が登場します。彼女が全体のプログラムの50%以上くらいを担っているような感じでした。ここでもまだ笑顔なしで、一生懸命なのだけれど、余裕がない感じが伝わってきて、何だか私まで辛くなってきてしまいました↓ 前半終了で、休憩時間。「外に行くと、私たちのサーカス団の動物たちと触れ合えますよ~」とのアナウンスで、子供たちは駆け寄っていきました。・・・目の前にもう見えている動物を見るために、「1人、1ユーロです」と、演技が終わって駆けつけた長女がレジ係に変身。う~ん、なんともけち臭いと思いながら、5人分5ユーロを支払いました。 後半がスタート。後半は、クレーマニ家の男性陣がどっと登場します。 写真だと上手く写っていないのですが、最後は団長が口から本物の火を噴くというパフォーマンスで終了。天井の低いビニールのテントに引火して火事にならないかと、私は冷や冷やでした。実際、火を噴く度に、小さい会場は「もわっ」と熱くなり、息子は「熱い、火がついちゃうよー」とパニックになり、泣きそうになってしまいました。 なんとか無事に、全部終了。最後はクレーマニ家全メンバーが再登場し、挨拶をしました。挨拶では、サーカスの内容についてや観客のことなどには一切触れず、如何に自分たちの巡業の旅が辛くて大変で、財政的に厳しいということを繰り返し繰り返し主張。 と思いきや、終了後は、「1ユーロで、サーカス馬に乗れます」と、また1ユーロ戦略。もちろん、うちの子供たちも他のゲストの子供たちも殺到します。親たちは、「また~」という顔で、しぶしぶ支払います。 子供たちはもちろん喜んでいましたが、小さな直径5メートルにも満たないサーカス円の周りを、子供たちに声をかけることもなく、淡々と急いでぐるぐる回して、「はい次の人!」といった感じで、全く心がこもっていない様な感じで、本当に残念でした。 地方巡業サーカスの状況は、思っていた以上に深刻。このままでは未来はないなあと、実感しました。 まずビジネスの観点からみて、沢山の間違いを犯しています。自分たちが大事に世話をしていて、巡業の旅のパートナー・ファミリーであり、そしてショーの出演者でもある動物たち。観客が彼らに直接触れ合うために、たった1ユーロを別徴収することで、大規模な勝ち組サーカスにはない、クレーマニサーカスだけの、せっかくのユニークなセールスポイントを、安物にしてしまっています。財政的に厳しいのであれば、入場料をその分ぐんと上げた方がよっぽどいい。そして、如何に自分たちが大変な思いをしているか・・・という悲哀で同情を買おうとしても、人は逃げていくばかりです。本当に自分たちのやっていることに誇りを持っていて、幸せであれば、自分たちのオンリーワンのユニークさを見つけて、それをもっとポジティブにアピールできるはずです。 残念ながら、彼らの姿勢が、私には、とても閉鎖的で、時代に逆行しているようにしか見えなかったのです。しかも、どこまで本当の意味での危機感を持っているのかも、疑問に思いました。いつも一緒の家族のみで、常に巡業をしている・・・という特殊環境も、彼らを社会から阻害してしまっている一因かもしれません。 ・・・でも本当に悲しかったのは、頑張ってパフォーマンスをしていたクレーマニ家の女の子たちに、最初から最後まで、笑顔がなかったこと。閉鎖環境の中で、小さいながらにも芸をして、家計を支えていかなければならないというプレッシャーが、10代前後の女の子たちから笑顔を奪ってしまったのでしょうか?そして、そこまでして辛いなかを頑張っても、この先一体、望みはあるのか・・・という現実社会での厳しい環境と未来。また、世界のどこであっても、大人になっての文盲には“圧倒的にサーカスなど巡業の家に育った子供たちが多い”という事実を昔聞いたことも思い出しました。確かに、今、夏休みでもなんでもないし、学校もどうしているのだろう・・・。私も母の身なので、疑問・心配が募ります。 生活感一杯の、ダイニングルームが覗くトラック。滞在の5日間も、もちろんここで生活です↓ 今の時代、サーカスに限らず、誰もが厳しい環境の中、どうにか幸せに生きていくためには、閉鎖的にならず、常にオープンに構えること、そして自分を常に客観視して、時代の流れを嗅ぎ取ることがとても大切だと思います。現実を直視するのは怖いこともあるけれど、勇気を出して向かわない限り、自分から袋小路に迷い込んでいくだけ。斜陽ビジネスにいても、シルク・ドゥ・ソレイユのような、奇跡を起こすことも実際可能なわけで・・・。 後もう1つ、やっぱり「自分、自分」というエゴで考えている限り、保守になるしかなくなってくるのだと思います。反対に、「人のために何が出来るだろう。何をしたら、他人が喜んでくれるだろう」といった他者視点の姿勢になった時、クリエイティブで、思いもよらなかったアイディアや行動が生まれてくるのかもしれない・・・と思います。
by mikiogatawestberg
| 2008-05-21 06:19
| ビジネス・Business
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