Hartz-IV(ハルツ・フィア)とは?
ドイツに在住の方であれば、
周りを見回すと、 どうしてこの国には、失業者がこんなに多いんだろう・・・ そして失業期間が既に数年・・・など、長くて、でも、困ってなさそうというか、切迫していなそうに見える・・・ 仕事を探しているようにも見えないし、、、 やる気がないのかもしれないけど、 大学に何年も在籍して、修士号を持っていたりもする。 頭も悪そうじゃないし、きちんとした服も着ているし、健康そうでもある(フィットネスに行っていたり、ヨガをやっていたりする)。 話題は、子供の次のバースデーパーティーのこと、ウアラオプ(休暇)のこと、新調するシステムキッチンのことなど・・・・ こういう「失業者」に出会うことが、結構頻繁で・・・ その度に、この人たちはもしや、不動産をたくさん持っていたり、遺産を引き継いでいたり、株で大当て?!したり、何か特別な背景があって、働く必要がないのかなあ・・・ なんて、色々考えを巡らせるけれど、そんなに沢山資産家っているものなのだろうか??? などなど、謎が一杯のドイツ社会。 ・・・「失業」の意味自体が、日本や他の諸外国と、ドイツでは全く異なる現実があるので、私達日本人は、日本の「失業」という言葉の意味で、このドイツの事象を捉えようとすると、頭が本当に???となるのです。 この珍事象を読み解くのには、 「Hartz-IV(ハルツ・フィア)」という、2005年のシュレーダー政権の時に出来た法律 を知ることがキーワードになります。 今ドイツでは、このHartz-IVは、これから説明するとおり、ものすごい矛盾と不公平を含んでいて、また財政的にも、社会的にも、全ドイツ国民とこの国の未来に関わる大きな事項なので、Reizwort(強い感情を引き起こす)として、大きな議論の的になっています。 先日ハンデルスブラッド紙で特集記事を見つけ、私もこれについて、本当のところを詳しく知りたいとずっと思っていたので、気合を入れて読みました。 詳細に入り込むと、このブログを書くのに、おそらく一日中かかってしまうので、ここでは簡単にポイントを説明します。 ↑写真一番右は、Hartz-IVを受けている男性とその家族(妻と子供二人)が、国から支給されている月当たりの生活費が、1652ユーロ。 その左側は、同じように妻と子供二人がいて、職業を持ち働いている男性の平均月給。これによると、一番左の時間労働者はハルツIVに比べて、-17%、ホテルマンは-12%、ウエイターは-7%、掃除夫は、-4%と、働いている男性の方が、手取りが少ないという、びっくりな現実があるのです。しかも、これらはどの職業も、体力や知力や社会関係力など色々なことが要求され、ハードでストレスもたまるけれど、でも社会になくてはならない職業です。 ↑そして、こちらは、Hartz-IVの右側の職業で、かろうじてHartz-IVより、月収が上回っている職業に就いている人々。左から、介護士(+1%)、先生(+2%)、警備員(+3%)、肉屋マイスター(+5%)、整備士(+7%)、どれも、もちろんフルタイムの仕事で、私たちの生活、セイフティーネットに、直に大きな関連性のある、社会にとって大事な職業たちなのでしょう。 ・・・これが、経済大国ドイツの過酷で、アンフェアな社会図です。 そして、 「働く人は、バカ」 という観念が、ますます強まり、社会に浸透していってしまうのです。働く人、汗流す人、人のために何か貢献する人が“バカ”であるため、当然ながら、何もせずに“失業”、“HartzIV”を受けている人たちは、バカの反対、むしろ“利口”ということになり、学歴が高かったり、プライドが高い人も、そのステータスを恥ずべきだとも思わず、むしろ賢い自分の、“賢い”選択・・・と思ってしまう・・・という、大矛盾、負のスパイラルに陥っていくわけです。 もちろんこのような考え方は、「人間の自己実現要求など、深く追求していったら、一見楽な人生を送れるように見えて、実際は本当の幸せや満足感は得られない・・・」という事実が、ホリスティックな視点で考えることが出来る人には十分見えるわけですが、世の中残念ながら、断片的、短期的に物事を見る人が、やはりまだマジョリティー(多数派)なんだと思います。“楽さ”、“依存”を求める誘惑は、人間には常に付きまとい、これを乗り越えるには、やはり精神的に何か自分軸を持たないと、目の前に誘惑があれば、大部分は負けてしまうのが人間の性(さが)なのかと、ため息がでます。 話は戻りますが、記事を最後まで読み進めていくと、 「働く人は、バカ(Wer arbeitet, ist der Dumme)」は、実際には、 「知らぬ人は、バカ(Wer nicht weiss, ist der Dumme)」 が、より正確な表現かもしれないと、私は思い始めました。 というのは、今一番急上昇しているタイプが、HartzIVを受けつつ(月収約1653ユーロ)、税金が一切かからないminijob:ミニジョブ(週2~3回くらいの労働量で、月400ユーロ上限)を合わせているという人々。これだと、なんと手取りが月2000ユーロを超え、この記事に載っている職業の月収平均をぐんと追い抜くのはもちろん、ごく通常の企業に勤めるサラリーマン系の月給にも、そこはかとなく近くなってきます。 このHartzIVの大欠陥と失敗については、もちろん多くのドイツ人、政治家も気づいて、今また、色々なステークホルダーとの力関係もありながら、大きく変化を求められているのですが・・・・ こんな状況にも関わらず、更に先日、HartzIVの大人への支給額が月あたり、5ユーロ引き上げられ、HartzIVの子供たちが月あたり貰える育児補助金が215~287ユーロへと、更に引き上げられました。(ちなみに、HartzIV以外の普通のドイツ人家庭では、育児補助金は月184ユーロです) それに加えて、HartzIV受給者は、 「失業者だって、子供にバレエや音楽を習わせたり、ウアラオプ(休暇)を楽しむ権利がある!」 と言いはじめ、政府は、HartzIVの子供たち対象に、無料のバレエ・音楽教室を考え始めたり、ウアラオプに関しても、「基本的人権の一部」のような、捉え方をして、前向き(!)に考えているというわけです。 子供の習い事や学費のために、汗水たらして働いている私たちは、一体何なのでしょう。仕事をしなければならないから、子供の習い事にいつも同伴することさえ難しいし、仕事のために、長いウアラオプなんて、私は取ったことがない!!! 「この国は、資本主義ではない」 とは、ドイツに住んだ外国人(特に、イギリスやアメリカなどのアングロサクソン系や、日本も含めた東アジア出身の人々)は、声を揃えて言うことですが・・・・。 日本の中国などに対しての負け外交と同様、ドイツでは、遡ると、人種・人間の基本的人権・平等を奪い取った象徴でもある「ナチス」の過去があるので、ここを攻撃されると、 すぐに、塩をかけられたナメクジのように、 「負け外交」、「負け内交」 になってしまう。 敗戦からもう何十年も経ち、時は2000年になってからもう10年経つのに、いつまでも、「戦敗国」のマゾヒズムに翻弄されててもいいのでしょうか。 歪んだシステムには、そこから最大の利益を引き出そうとする“悪”があっという間にはびこり、それは、人間の性の弱さを味方にして、急増殖していく。後に残った負の遺産を引き継ぐのは、いつも少数派の正直者。ドイツの政治や世界的な環境問題を見ていると、そんな正直者なんてひと吹きされてしまうような、厳しい状況だなあと思います。 そんな中で、働いて、高い税金を納めて、生きていく。 色々な感情がもちろん渦巻くし、がくんと力が抜けてしまうことも多い。 色々な意味で“自分の生き方”を問われるのが、最近の私のドイツ生活です。
by mikiogatawestberg
| 2010-09-30 18:57
| 政治・Politics・Politik
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