人気ブログランキング | 話題のタグを見る

THE BODY SHOP創業者アニータ ロディックが遺したもの

先日、仕事で取引先と話をしていて、ひょんなことから、ザ・ボディショップの創業者で世界的に成功者として知られる、アニータ ロディック氏が去年亡くなっていたということを聞き、ショックを受けました。

最後に姿を見たのは、1年くらい前のCNNのインタビューで、インタビュアーに色々スキャンダル問題に関しても聞かれた後、最後に、「これから起業を目指す若者にメッセージは?」との問いに、「Don't go to business school/ビジネススクールに行くな」と言い放ち、「自分の勘に従って、好きなことをすぐ始めることが大事」と言っていたのが、印象的でした。

反体制的なのは、彼女は元々ヒッピーで、「若い時に世界中を旅したことが、ボディショップのアイディアと製品の全ての根源。会社所在地を見るまで、イギリスの会社ってことが分からないくらい、世界中からインスピレーションを受けているの」と、別のインタビューで答えていたのを覚えていたので、やっぱりなるほど、そうなんだと思いました。
が、それにしても、現在世界50カ国以上に進出、店舗数は2000を超えることを考えると、ビジネスの才覚も並大抵なものではなかったのだと思います。フランチャイズを上手に使い、ネットワークを急速に拡大したのだと思いますが、あのロバート・キヨサキ氏も、女性がビジネスを起こす際のメンターとして、彼女を理想的と言っていたのも思い出しました。

ボディショップの何が斬新だったかというと、今でこそこぞって企業や社会が「フェアトレード」とか、「環境に優しい製品」など言っていますが、そんなことを誰も言っていなかった、今から30年以上前の1976年に、既にそれらのバリューを打ち出していたことでした。ボディショップには、5つのバリューというのがあって、動物実験反対、公正コミュニティトレード、セルフエスティーム(Self esteem自分らしい生き方)、人権保護、環境保護を意味していることで有名です。

中でも、3つめのバリュー「セルフエスティーム」というのを会社のバリューとして掲げているところが、私にとってはボディショップが個性的な会社であるといつも感じていた理由の一つでした。

「Love your body/あなたの体を愛しなさい」

「There are 3 billion women who don' t look like supermodels and only 8 who do/ 世界で30億人の女性は、スーパーモデルのような容姿ではなく、たった8人だけがそれに当てはまる」

・・・これらの鮮烈なメッセージに、強く心を揺り動かされたのは、私だけではないはずです。

と、ここまでは順調・拡大路線だったと思うのですが、ここ数年急に、このボディショップのバリューが疑われるようなことが次々と起こってきたのです。

まず大きくバッシングを受けたのは、「利益だけを追求する会社は、会社の将来を潰す」と長い間公言していたのにも関わらず、フランスの大手コスメブランド「ロレアル」に会社を売却してしまったことでした。ボディショップの信念を裏切ったとして、バリューに共感していた人々が失望し、多くのファンを失ってしまったのです。

同時に次第に明らかになってきた、ボディショップの製品の実際の内容。ナチュラルなイメージを売りにしていたものの、実際の配合成分は、通常のケミカル系コスメと殆ど変わりのない内容。実際本物のナチュラルコスメ・オーガニックコスメブランドの台頭と、それを真剣に求める生活者層の登場で、この地位にもついに揺らぎが来てしまったのです。以前よりもずっと情報武装に強くなった多くの生活者は、ボディショップは、「ナチュラルなものでなく、ナチュラルなイメージを売っていたのだ」と、まるでずっと騙されていたような気持ちを抱くようにもなってしまいました。

最近はそんな背景もあり、ボディショップに関わらず、コスメ・美容業界全般で、“ナチュラル”や“オーガニック”などの言葉を使った表現の仕方にも、周囲の目がもっと厳しくなっていますが、ボディショップInternationalのホームページを見ると、「Amazing beauty products inspired by nature ethically made/自然にインスパイアされ、倫理的につくられたビューティーアイテム」というように紹介されています。
・・・確かに、よく読むと、ナチュラルコスメである、オーガニックコスメであるとは、言っていません。また公正に取引されたフェアトレードであっても、ボディショップの場合、オーガニックというレベルまで、いっていないのです。これは、バリューで環境保護や持続可能な社会を謳っていることとも反してしまっているし、実際、フェアトレードであり、且つオーガニック品質の原料を得ている本物のオーガニックコスメブランドが、今世界中でどんどん進出してきています。

アニータ・ロディック氏は、2002年以降は、アドバイザリーとしての立場にとどまっていたそうですが、自らが打ち立てたこれらのバリューがどんどん崩れていくのを、どんな風に眺めていたのでしょう。私は個人的に、彼女に関しては、大成功した女性起業家としても興味があるし、環境や人権、セルフエスティーム(自己尊厳)のバリューを掲げた人間としても興味があるし、そして晩年の信念と行動の矛盾の謎にもとても興味があります。一体本当はどんな女性だったのか、もっと深く知りたいので「ザ・ボディショップの、みんなが幸せになるビジネス。」「BODY AND SOUL ボディショップの挑戦」を、近いうちに是非読んでみたいと思っています。
ちなみに、彼女の死を伝えたドイツの南ドイツ新聞では、記事に「Die gruene Seele der Kosmetikindustrie/コスメ界の緑の魂」と、タイトル付けされていました。

よく、人が亡くなっても、その人がつくったシステムは残るといいますが、ボディショップの今後の展開にも目が離せません。

私が今、注目しているのは、ボディショップを買収したロレアルの今後の動きです。ボディショップ買収後は、今度はフランスの優良オーガニックコスメブランドのサノフロールを買収し、今、一刻も早く、オーガニック路線に乗り移ることに必死です。ボディショップの持つ、世界50カ国以上、2000に上る店舗。これが一気に、ロレアルの力で、オーガニックコスメ(どんなレベルのどんな品質かは見物ですが)で占められる・・・なんてことが起こらないとも言えないのです。

去年9月にロンドンに行ったとき、市内にまだ沢山あるボディショップの店舗内に、殆どを客を見かけませんでした。異様な静けさを感じたのを覚えています。
by mikiogatawestberg | 2008-02-19 08:15 | ビジネス・Business
<< チェリーブロッサム ラディッシ... 真冬に戻ったドイツの、日曜日の... >>